印の廃止について2020年10月26日

日本人は、昔から印(はんこ)を大切に扱ってきたように思います。私の場合、中学校卒業のときに学校から卒業生全員が各人の苗字を刻んだ印をもらいました。その後実印が必要になったので学校からもらった印を市役所に届け出て実印にしました。さらに先祖が使っていた立派な印が出てきましたのでそれを実印に変更しました。印は,法律上も重要な扱いを受けてきました。まず民事事件では、その人の印が押してある文書はその人が全部を作成したと推定されます(民訴法228条4項)。その意味は、自分の印が押してある以上,内容は知らないと言わせないということです。銀行実務においても銀行に届け出た印は重要な意味を持っています。手形の振出印が違えば印鑑相違で手形の支払がされません。刑事事件においては、行使の目的で他人の印を偽造するだけで3年以下の懲役に処されますし(刑法167条1項),他人の印を使用して文書を偽造すれば5年以下の懲役に処されます(刑法159条)。
ところが最近、政府の方では印を廃止する方向で検討されているようですが、それが,政府の各省庁の決済書類の印をなくすだけのことならよいのですが、何でも廃止となるのは困ります。全面的に印を廃止するのなら、上記のような印の歴史、民事・刑事上の扱いなど、十分な知識を持った上で廃止の可否を検討してもらいたいと思います。私は,民事・刑事上の扱いや実印制度(地方公共団体の条例による)などは廃止する必要がないと思います。むしろ,印を大切に扱ってきた日本の伝統を守ってほしいと思います。