えん罪事件と国家賠償 ― 2019年03月15日
少し古い話になりますが,テレビのニュース報道によると,ある男性は,女性の嘘によって強姦罪で有罪になり,懲役12年の刑が確定し,6年間服役しました。しかし,あとになって,被害女性が嘘をついていたことがわかったため,再審により無罪になったそうです。そこで,男性は,国に対し,国家賠償法による損害賠償を求める民事訴訟を提起しましたが,大阪地裁はその請求を棄却したとのことです。その話を聞いて,私は,それは気の毒だ,請求を認めてあげたらよいのに,と裁判官をなじる気持ちになりました。しかし,くわしいことがわかって考えを改めました。男性が提起した民事裁判というのは,裁判官が不法行為をしたことを理由とする国家賠償法1条に基づく請求だったというのです。ただし,これを書いている時点では判決文を入手できていませんので間違っていたらご勘弁ください。
しかし,裁判官は,法廷に提出された証拠を見て判断すればよいのであり,その判断が間違っていたことが後にわかったからといって,裁判官が不法行為をしたとは言えません。判例(最高裁昭和57年3月12日判決・民集第36巻3号329頁)は,「裁判官がした争訟の裁判につき・・・国の損害賠償責任が肯定されるためには、・・・当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする」と述べています。「裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判」することなど通常あり得ません。検察官や司法警察員に過失があることを理由とする国家賠償ならともかく,裁判官に過失があることを理由とする国家賠償請求は容易に成立しません。請求を棄却した民事裁判の判決は当然だと思います。
なお,上記の最高裁判決が対象とした民事訴訟は,私が弁護士となった当初に勤務した法律事務所のボス弁が訴訟代理人として提起した訴訟でした。当時は,あまりに唐突に裁判官の過失を理由として国家賠償を求めるボス弁の発想に違和感を抱き、ついていけないなあと感じました。結局,ボス弁と意見が合わず,わずか2週間勤務しただけでその事務所を退職する羽目になりました。そのボス弁も今や故人となっています。
しかし,裁判官は,法廷に提出された証拠を見て判断すればよいのであり,その判断が間違っていたことが後にわかったからといって,裁判官が不法行為をしたとは言えません。判例(最高裁昭和57年3月12日判決・民集第36巻3号329頁)は,「裁判官がした争訟の裁判につき・・・国の損害賠償責任が肯定されるためには、・・・当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする」と述べています。「裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判」することなど通常あり得ません。検察官や司法警察員に過失があることを理由とする国家賠償ならともかく,裁判官に過失があることを理由とする国家賠償請求は容易に成立しません。請求を棄却した民事裁判の判決は当然だと思います。
なお,上記の最高裁判決が対象とした民事訴訟は,私が弁護士となった当初に勤務した法律事務所のボス弁が訴訟代理人として提起した訴訟でした。当時は,あまりに唐突に裁判官の過失を理由として国家賠償を求めるボス弁の発想に違和感を抱き、ついていけないなあと感じました。結局,ボス弁と意見が合わず,わずか2週間勤務しただけでその事務所を退職する羽目になりました。そのボス弁も今や故人となっています。
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